古い物件を見ると、多くの人が「古いからダメ」と判断します。しかし建築士の目で見ると、その物件には「今の新築では決して手に入らない価値」が眠っていることがほとんどです。本記事では、築 50 年の物件から「素材の宝物」を見つけ出し、活かしていくプロセスを、実例を交えてお伝えします。

「古い=つまらない」という思い込み

新築や築浅の物件が良いものとされるのは、「新しい設備」「無垢材」「最新の仕様」が揃っているから。ハウスメーカーの広告もそこを強調します。

しかし、RENOVATION ESTATE が手がけた物件を見ると、状況は全く違います。

  • 築 40 年の梁 — 樹齢 100 年を超える木が使われており、経年変化で深い色合いに。新しい無垢材では 50 年かけても出ない風合い
  • 土壁 — 左官職人が手で塗った跡が味わい深く、吸湿性能も現代の壁材より優れている
  • 古い建具の建て付け — 長年の使用で「家になじんだ」状態。新しいものより引き戸の滑りが良い場合も
  • 現地調査で見つかる隠れた素材 — 天井を落とすと格子天井が、壁をはがすとモルタル左官が。それらが「隠れた美しさ」

問題は、既存素材を「活かす」という判断が、建築士・施工者側にあるかどうか。多くの一般的なリノベーション業者は「古いものは撤去して新しくする」という発想です。

素材を「見極める」設計思考

RENOVATION ESTATE で重視するのは、「この素材は活かす価値があるのか、それとも新しくすべきか」を見極める思考です。

岐阜市若宮町の事例では、購入前の調査段階で以下を確認しました:

ステップ 1:天井裏の梁を確認
「これは活かせるか」を見る。商業ビル上階だったため、天井が低く、梁が見えるようには設計されていなかった。しかし梁のクオリティが高かったため、「露出させる価値あり」と判断。

ステップ 2:床を確認
古い土間コンクリート。ここは「新しくすべき」と判断。理由は、湿気の問題と将来の用途を考慮して、新しい床構造に替える方が生活の質が上がるから。

ステップ 3:外壁を確認
躯体にヒビあり。素材の問題ではなく構造の問題。補修後に改めて塗装する判断をしました。

要するに、素材ごとに「活かすべきか、新しくすべきか」を個別に判断するのが、設計思考の本質です。

羽島市の離れ改装——土壁から見えた当時の職人の仕事

もう一つの実例は羽島市の離れ改装です。老朽化した農家の離れを、オーナーご自身の住まいとして改装するプロジェクトでした。

天井を落とすと現れたのは、竹小舞と土壁、そしてガイシ(電線の絶縁物)。築 60 年以上の建物に施された当時の職人の手仕事が、そのままの状態で保存されていました。

  • 竹小舞 — 竹を編んで土壁の下地としたもの。建物を軽くしながら強度を保つ、当時の木工技術の結晶
  • 土壁の仕上げ — 左官職人が何度も塗り重ねた跡。表面の質感は完全に職人の手による
  • ガイシの配置 — 昭和時代の電気配線。現代的な配線ではあり得ない粗さですが、当時の電工の「合理的な判断」が見える

オーナーに「新しく全部やり替えるか、既存を活かすか」をお聞きしたところ、「当時の職人の仕事を残したい」とのこと。結果として、竹小舞と土壁の一部を現地保存し、新しい断熱材を加えるハイブリッド的なアプローチを採用しました。

完成後、オーナーからの評価は「昔の職人の仕事と、現代の快適さが一緒にある空間。本当に気持ちいい」でした。

「古さ」をコストと見るか、価値と見るか

リノベーション業者には 2 つのタイプがいます:

タイプ A:古さをコストと見る
「古い → 傷んでいる可能性 → 修繕コストがかかる」という発想。結果として「全部新しくしたほうが安く上がる」という提案になりがち。

タイプ B:古さを価値と見る
「古い → 時間をかけて育まれた素材 → 活かす工夫 → 独特の価値」という発想。結果として「この素材は活かせる、ここは新しくする」という細かい判断が可能。

RENOVATION ESTATE は後者です。ただし「古ければ活かしましょう」という無条件な賛美ではありません。

「本当にこの素材を活かす価値があるのか」を、構造・機能・美しさの三点から検討する——それが設計思考です。

なぜ店舗開業の経験が、リノベーション設計に活きるのか

RENOVATION ESTATE を率いる中原陸雄は、以前「千金堂」という店舗開業支援の会社に勤務していました。そこで 15 年間、美容室・飲食店などの店舗開業をサポートしてきた経験があります。

店舗開業では、「既存の空間をいかに活かすか」という判断が毎日降りかかります。

  • 築 50 年のビルの一角を借りて飲食店にする——天井の古いままの構造を活かすのか、新しくするのか
  • 既存の壁の質感を「レトロ」として魅力にするのか、全面改装するのか
  • 古い窓枠の建て付けは修理できるのか、新しくする必要があるのか

こうした判断を何百件と経験してきたからこそ、「古い素材のどこを見るべきか」という眼が養われました。

その眼で見ると、「新築の住宅」より「古い物件」の方が、オーナーらしい空間をつくれる可能性が高いのです。

見える化:素材の「活かし度」を判定する

RENOVATION ESTATE では、物件調査の際に以下を チェックシート化して確認します:

梁・柱
構造上撤去できるか / 樹齢・樹種はどのくらいか / 経年変化の色合いは美しいか → 活かすか


断熱・湿気対策は新しくする必要があるか / 遺構として見えるままにするか / 新しい構造の下に埋め込むか


左官仕上げの質感は活かせるか / 吸湿性能は必要か / 新しい設備配線に対応可能か

建具
修理で再利用可能か / 新しい枠に合わせる調整は可能か / 建付けの良さは活かす価値があるか

この判定を通じて、初めて「オーナーのための提案」が見えてきます。

よくあるご質問

Q. 古い素材を活かすと、かえってコストが高くなるのでは?

A. その通り、活かすために「補修」というコストが発生することもあります。ただし、「その補修に見合う価値があるのか」を判定することが大切。新築では決して出ない風合いが得られるなら、そのコストは「自分たちの空間作りへの投資」です。

Q. 古い梁や土壁は、本当に長持ちするのか?

A. 築 60 年以上で健全に保たれている既存素材は、既に 60 年の耐久性を証明しています。今後も同等の環境管理をすれば、さらに 60 年は問題ありません。むしろ新しい素材より信頼性が高い場合さえあります。

Q. 『素材を活かす』って美しさの話だけですか?

A. いいえ。構造の強度、吸湿性などの性能、メンテナンスの容易さ、経年変化への耐性——多次元で判定します。美しさはその結果の一つに過ぎません。

▶ この記事のまとめ

  • 「古い=つまらない」は勘違い。既存素材には 50 年分の価値が眠っている
  • 樹齢 100 年の梁、左官職人の手による土壁——新築では決して手に入らない
  • 素材を活かす判断は、無条件な賛美ではなく「構造・機能・美しさ」の三点評価
  • 店舗開業 15 年の経験が、リノベーション設計の眼を育てている
  • 古さをコストと見るか、価値と見るか——設計思考の根本的な違い
  • チェックシート化した判定で、オーナーにとって本当の価値提案が見える

RENOVATION ESTATE が「素材を生かす」にこだわるのは、美しさのためではなく、その物件が本来もっている力を引き出すためです。築 50 年の物件だからこそ、新築では実現できない空間が生まれます。

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