「リノベーションと店舗設計は本質が同じ」——これは、RENOVATION ESTATE を率いる中原陸雄が 15 年の店舗開業支援で学んだ重要な洞察です。店舗設計で要求される「限られた空間で最大の価値を生み出す」という思考は、そのまま住宅リノベーションに応用できます。本記事では、「造作」を軸に、店舗と住宅の設計思考の共通点を、実例を交えてお伝えします。
店舗設計と住宅リノベーション——見た目の違い、本質の共通点
一見すると、美容室やカフェなどの店舗と、住宅のリノベーションは全く別物に思えます。しかし、設計士の目で見ると、両者は「限られた空間で、ユーザーのために最適な環境をつくる」という根本的な課題が同じです。
店舗では:
- 顧客が滞在する 30 分~1 時間で「このお店が好きだ」と感じる空間を
- 限られた坪数の中で、動線・照明・素材のすべてが一体になった体験を
- 予算に限界がある中で、「本当に必要な投資」と「削る部分」を判断して
住宅では:
- 家族が毎日過ごす中で「ここにいると心が落ち着く」と感じる空間を
- 限られた予算と工期の中で、くつろぎ・機能・美しさのバランスを
- 後悔しない決断の連続で、本当に大切な部分に注力して
この共通性を理解することが、「普通のリノベーション業者」と「本当の意味で顧客のために設計する業者」の違いを生むのです。
「造作」——市販品にはない空間価値
店舗設計で最も大切な要素は「造作」です。造作とは、大工や左官が現地で施工する家具・建具・装飾のこと。市販品の棚を買ってくるのではなく、その空間の寸法・素材・機能に合わせて「オーダーメイド」でつくるものです。
SALON ESTATE で美容室の設計をするとき、造作が占める比率は非常に高いです。例えば:
受付カウンター
市販のカウンターテーブルではなく、その店舗の奥行き・高さ・素材・照明を一体で考えた造作カウンター。顧客が最初に見る「その店の第一印象」を決める部分。
スタイリング台の下地
ドライヤーやコテの収納、配線の引き回し、足元の空調——すべてが機能的に、かつ見た目がすっきりするよう設計。市販品では絶対に実現できない。
バックヤード(従業員エリア)
お客さまには見えない部分だからこそ、効率性と快適さが問われる。造作で「動きやすさ」をとことん追求します。
この「造作への思考」は、そのままリノベーション設計に応用できます。
住宅リノベーションで活かす「造作」の発想
RENOVATION ESTATE では、新築ビルの仮設住宅から古い農家の改装まで、「造作」を主軸に設計します。
① キッチンの背面造作
オープンキッチンを導入する際、市販の食器棚を置くのではなく、その家族の「調理スタイル」「収納方法」に合わせた造作カウンターを。
- 調理中に使う道具がすぐ手に届く高さ・位置
- 来客時に見えても違和感のない素材選び
- 家電の配置(トースター・コーヒーメーカー)をあらかじめ検討して
こうした細部の設計は、店舗設計で「使い手の動線を読む」という訓練があるからこそ実現できるのです。
② 洗面台・ランドリーエリアの造作
朝の家族の身支度——複数の人間が同時に鏡を使う時間帯の効率性を、造作で解決します。
- 複数の鏡・スイッチの配置を「朝の 10 分間」をシミュレーションして設計
- 洗濯機の上に造作棚で、タオルやランドリーボックスをすっきり収納
- 照明の位置で「鏡の見え方」「朝日のイメージ」を調整
③ 寝室・クローゼットの造作
既存クローゼットは、その家族の服の量・取り出し方に合わないことがほとんど。造作で一から設計することで:
- 衣類の見える化——何を持っているかが一目でわかる
- 季節の服の入れ替えを効率化する引き出し・ハンガーパイプの配置
- その家族だけの「朝の準備ルーティン」が快適になる設計
④ リビング・造作ニッチ
壁に飾り棚や造作ニッチを設けることで、「その家族の生活を映す空間」になります。
- 子どもの成長に合わせて入れ替わる飾り物
- 家族の思い出の写真や、旅行の思い出の品
- 毎日目にするからこそ「心が落ち着く素材・色合い」
市販品 vs 造作——費用と価値の関係
「造作は高い」という先入観があるかもしれません。確かに、一点もの・手作業・現地施工のため、市販品より費用がかかる場合も多いです。
しかし視点を変えると:
市販品
サイズが固定・機能が固定・素材が固定。その家の空間にぴったり合わず、結局「隙間が生まれたり」「余った機能がある」。毎日のストレスになることも。
造作
この家族のために、この空間のために、ゼロから設計。毎日の快適性・効率性が全く違う。月に 1 万円のコスト差なら、20 年使えば 240 万円。その対価は十分。
店舗開業では「顧客が感じる快適さで店の評価が決まる」という経験を何百件もしてきた。だから、住宅でも「この造作にこのお金をかける価値がある」と自信を持って判断できるのです。
「見えない部分」の設計思考
店舗設計で学ぶ大切なことの一つに、「お客さまに見えない部分」への投資があります。
- バックヤードの動線効率
- 配線・配管・空調の隠し方
- 清掃・メンテナンスのしやすさ
見えない部分が充実していれば、従業員は快適に働ける。その「心の余裕」が、接客の質に表れ、顧客満足度が上がる。
住宅リノベーションでも同じです。
- 天井裏の配線・配管 — 見えないからこそ、将来のメンテナンスを想定した設計
- 収納の深さ・奥行き — 「何をどこに入れるか」を想定した寸法設計
- 床下の給排水・電気 — 完成後 20 年使う家だからこそ、見えない部分に手を抜かない
このこだわりが、「長く住み続けたくなる家」と「5 年で不満が出る家」の違いを生むのです。
建築士が「店舗」「住宅」両方を手がける理由
RENOVATION ESTATE は、SALON ESTATE の美容室設計経験を持ったまま、住宅リノベーションに参入しました。これは決して「事業拡大」だけが理由ではありません。
店舗設計で磨いた「設計思考」が、住宅設計をより良くすると確信していたからです。
- 限られた空間で「本当に大切な部分」に投資する判断
- 「人の動き」「心理」を読んで空間を設計する力
- 見える部分・見えない部分の両方にこだわる姿勢
これらすべてが、「一家族一家族に真摯に向き合うリノベーション」に必要な力なのです。
よくあるご質問
Q. 造作だけで予算が膨らまないですか?
A. 造作の設計では「何にお金をかけるか、何は省くか」を戦略的に判定します。例えば、クローゼット造作に 50 万円かけるなら、その分トイレの設備は市販品で済ませる、という判断も含まれています。
Q. 造作は将来的に変更できないのでは?
A. その通り、完全に固定されるものもあります。だからこそ設計段階で「20 年後の生活を想像して」設計することが重要。将来の変化を予測した「柔軟な造作」もあります。例えば、棚の位置を調整しやすい造作ニッチなど。
Q. 中古物件の造作は、新築より難しくありませんか?
A. むしろ、既存の梁・壁・高さという「制約」がある中で造作を設計する方が、空間のポテンシャルを引き出せます。その制約を活かす設計が、結果として「この家にしかない」オリジナルな空間になるのです。
▶ この記事のまとめ
- リノベーションと店舗設計は「限られた空間で最大の価値を生む」という本質が同じ
- 「造作」を軸に、市販品にはない空間価値をつくることが大切
- 店舗設計 15 年の経験が、住宅の造作設計の精度を高めている
- キッチン・洗面・寝室・リビング——すべての空間で造作活用の工夫がある
- 市販品より高コストになる場合もあるが、20 年の快適性を考えれば投資対効果は十分
- 「見えない部分」への投資が、長く住み続けたくなる家を作る
- 建築士が店舗・住宅両方を設計することで、より深い「人中心の空間設計」が実現する
RENOVATION ESTATE が「造作」にこだわるのは、美しさのためではなく、「この家族がこの家で快適に、効率的に、心安らかに生活するため」です。市販品では決して出会えない、その家族だけの空間をつくること——それが、我々の設計の核なのです。
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